保育士を日々さまざまなストレスと戦っています。”適度”なストレスであれば脳が活性化され、良い効果をもたらすそうですが、当然ながら”過度”なストレスはからだに悪影響を及ぼします。
「自分は精神的にタフだから大丈夫」と思っている保育士さんでも、知らず知らずのうちにストレスが溜まっていることも。
そこで今回は、保育士を襲う代表的なストレスをご紹介させていただき、ストレスの原因や症状について学びましょう!後半には一人でストレス度合いを確認できるストレスチェックと対処法について記載してありますので、こころもからだも健康な保育士さんを目指しましょう!
まずは、世間一般から見た保育士のイメージと実際の保育の現場ではどれほど乖離があるのか見ていきましょう。
子どもが好きな人にとってはやりがいも大きく、魅力的な仕事に思いますが、その反面、現場ではそれ以上の苦労も・・・。
世間ではこのような保育士のイメージを持っている方が多いようです。中には保育園に預けて利用している保護者の方からの意見やご理解のある方もいらっしゃり、頷けるイメージもあるかと思います。しかし多くは“子どもと遊んでいるだけ”というストレスとは無縁なイメージを持っている方が多かったですね。
しかし、実際はそんな世間のイメージとは裏腹に、保育の現場はさまざまなストレスが溜まりやすい環境です。
どのような仕事でもストレスは生まれるもので、保育士さんも例外なく仕事上さまざまなストレスを抱えながら仕事をしています。常に「他者に対する配慮や、献身的な関わり」が求められる中で、仕事量の多さ、それに見合わない給料、そこに職場や保護者との人間関係などが絡まり、そのストレスが慢性的に蓄積されていくことによって、保育士の“バーンアウト(燃え尽き症候群)※”を発症するリスクが高まります。元々責任感が強い人が多い保育士は特になりやすい体質といえます。
さらに、人手不足の影響で仕事に余裕がもてず、周囲の期待や羨望ばかりが高すぎる環境下で“無理をしている自分”に無自覚でいることも、よりバーンアウトに陥りやすくなってしまうようです。
このバーンアウトの原因となるストレスを大きく分けると「人間関係」「仕事量の多さ・長時間労働」「保護者対応」「園の方針と合わない」「給料が低い」の5つにまとめることができます。
次項ではそれぞれのストレスについて具体的に解説します。
※バーンアウト…献身的に働くなかで過度なストレスによって心身ともに疲弊し、仕事への意欲や達成感を失い、非人間的な対応や鬱(うつ)症状を伴うことによって、休職や離職の原因となること。
保育士資格があるにも関わらず、現在保育士として働いていない“潜在保育士”は全国に80万人以上もいます。保育士という仕事にやりがいを感じながらも、保育の現場を離れてしまったのはなぜなのでしょうか。職場環境による退職で最も多いのが「人間関係」となっており、全体の26.5%を占めます(株式会社ポピンズ 厚生労働省委託事業「平成23年度潜在保育士ガイドブック」より)。
この人間関係に多くの保育士さんは大きなストレスを感じて転職したり、復帰をためらう原因となっています。
男性保育士が増え始めているものの、まだまだ女性が大半を占める保育士の職場。閉鎖的な空間であるからか、女性特有の派閥や陰口が生まれやすく、ドロドロした人間関係による女性同士の妬みなどが水面下で渦巻いているケースが多いようです。
繁忙期や忙しい職場ではどうしても口調が強くなってしまったり、無視されたと勘違いされることが多く、そこから嫌味やいじめに発展することも…性別に関わらず同性には厳しい評価をしやすいということもあるようです。
また、保育士の職場は年齢や経験年数がバラバラなことが多く、人によって保育観も異なることも多いですが、自己主張の強い人の意見や価値観に染まりやすい環境でもあります。女性同士の距離の置き方や接し方を意識するあまり、本来の仕事である保育に集中できずに余計な神経を使ってしまい、そのストレスがいずれ精神を病んでしまうことにつながります。
保育士は子どもを見守るだけが仕事というわけではなく、日々膨大な事務作業をこなしています。
日案、週案、月案、児童票、誕生会やクラス懇談会の計画、個人指導案・記録、グループ作りのためのグループ割表、年間計画、クラス・園だより、保護者との連絡帳、イベント行事の準備…など
上記は代表的なものになりますが、保育士の事務作業は多岐にわたります。元気いっぱいな子どもたちと一緒に遊んだり走り回ったりした後に、空いた時間で作業にあたります。
もちろん勤務時間内に終わることは少なく、サービス残業や持ち帰って作業をしてどうにか完成させています。
このように保育士さんは保育以外の仕事に心身ともに大きな負担・ストレスを感じています。「今日は疲れたから書類は明日まとめてやろう」と先延ばしにした結果、書類がどんどん溜まっていき、繁忙期に業務が集中してしまうなどの悪循環に陥ってしまうことになります。
近年は保護者からの要望に応えようと、早朝保育・夜間保育・日曜保育などを行う施設が増えており、本来の勤務時間以外の時間に勤務を余儀なくされるなど、保育士がストレスを感じてしまうことが増えています。
日々の保育と同じぐらい“保護者の子育て支援”も保育士にとって重要なお仕事です。保護者に共感的に寄り添い信頼関係を構築することは、言葉だけなら簡単なことですが、実践するとなると遙かに難しく、対応の困難さは心理的圧迫・脅威を引き起こします。
保護者は保育の場に常に居るわけではなく、保育士から報告や連絡やまだ言葉や考え方もままならない子どもを通じて“子どもの姿”を知ることとなります。そのため実際、目にしていない事を「信じろ」言うのは中々の理解力と信頼感が必要となり、保育士がいくら筋の通っていることを言ったとしても、立場や状況の違が保護者とは感じ方や気持ちの相違が生まれしまい保育士はそれにストレスを感じてしまいます。
また、保護者同士のトラブル・園へのクレームは、すぐに解決することは難しく、対応の仕方を間違えるとトラブルに発展するため、粘り強く、きめ細やかな配慮をもって関わることが求められるため、神経をすり減らしてしまい、いつクレームが入るのかと怯えてしまうほどにストレスと感じ保育士にとっては大きなストレスとなります。
保育園の方針に共感して入職しても、実際に保育士として勤務してみないと、その方針が現場まで浸透しているかどうかは分からないものです。理念や方針を100%現場レベルでも実践していくことは難しいですが、明らかに自分の理想としていた保育とはかけ離れたやり方だと納得するのに時間もかかり、現実と理想に挟まれてストレスとなる保育士は少なくありません。
保育に真摯に取り組みたいと思えば思うほど、考え方のズレが葛藤を生み、モチベーションも下がってしまうことがあります。
保育士は子どもの命を預かる責任の重い仕事であるにもかかわらず、他業種と比較しても給料が低いのが現状です。それに加えて自宅に持って帰るほどの業務量と、職員・保護者との人間関係を考えると、いくらやりがいのある仕事といえど、他の仕事に魅力を感じてしまうのも無理はありません。公立保育所の公務員保育士は、ある程度の水準での給料ですが、私立保育園や認可外では職場によってかなり差があります。中には、まだまだ待遇整備が整っていない保育園も多く、残業手当・休日手当・研修手当・早遅手当なども付かず生活するのも厳しく、最低限の生活をも苦しい状況が精神的にも参ってしまいます。
マズローの欲求5段階説においても、給料などの自分の生活を安全や豊かにしたいという欲求は、最低限の食欲などの生理的現象を満たすための欲求の次に満たしたと思うくらいに重要なのです。そんな欲求が満たすこと難しい保育士はかなりストレスが溜まってしまうでしょう。
上記のようなストレスを放っておくと、身体的にも精神的にも影響が出てきてしまい、最悪のケースとして精神疾患を患ってしまうこともあります。
昔は特殊な病気のイメージがありましたが、現在は精神科や心療内科に通う人も増え、精神的な不調により仕事を休むことも珍しくない状況です。
そのため、行政も大きな問題と捉え、2015年の労働安全衛生法改正にて“従業員50人以上の事業所については年1回のストレスチェック”を義務付けました。これは保育園も例外ではなく、ストレスチェックを受けて「高ストレス判定」を受けた場合は、産業医や専門の医師との面談をする流れになります。なぜこのような取り組みを行っているのかというと、ストレスに対して無自覚の方も多いので、データとしてストレス度を測ることによって客観的に自分自身のストレスを自覚してもらう目的があります。
しかし、保育園で職員が50名を超える規模の保育園は極めて少なく、メンタルヘルスカウンセリングを実施していない園は多く存在します。
そこで無意識にストレスを感じていないか一人で簡単できるセルフ・ストレスチェックリストをご用意しましたので、ぜひチェックしてみてください。「最近ストレス溜まっているかも・・・」と感じている方は特に要チェックです。
ストレスチェックリスト | |
---|---|
からだについて |
☑️良く眠れない・寝付けない ☑️食欲がない ☑️胃の痛み・吐き気 ☑️たびたび頭痛がする ☑️心臓がバクバクする・息苦しい ☑️日中にフラフラする・めまいが起こる ☑️汗がドッと出る、急なほてりがある ☑️理由もなく突然涙が溢れて止まらない |
こころついて |
☑️休日に出かける気や何もする気になれない ☑️上司や同僚の目ばかり気になる ☑️出勤前は気が重い ☑️おしゃれや買い物に興味がなくなってきた ☑️子どもを可愛いと思えなくなった |
上記のような症状を多く感じる場合、ストレスがあなたを蝕んでいるサインです。決して放置したり、自分で何とかしようと頑張り続けてはいけません。
仕事に悩みながらも子どもたちのためにと頑張すぎてしまう保育士の中には、無理を重ねたせいで、うつ病を発症してしまい、保育士として復帰できなくなったケースもあります。心身の不調は自己判断で決して処理せず、まずは専門医のカウンセリングを受けて相談してしましょう。
ストレスが限界に来てからの治療では手遅れになります。なので、日ごろから上手くストレス対策することが大切です。
ぜひ下記のストレス対策から“自分に合う”解消法を見つけて、心身ともに健康なからだを維持しましょう!
悩みや不安を一人で抱え込まないことはストレス対策において一番重要です。一人で抱え込悩んでしまうと常に思考がネガティブになりがちです。信頼できる同僚や先輩、友人や家族にいま感じている不安や悩みを率直に伝えてみましょう。誰かに聞いてもらうことで気持ちが軽くなったり、解決策が見つかるかもしれません。素直に自分の感情を表すことや、他人の意見を客観的事実として素直に受け止めて「対話」することで心の状態もきっと良い方向へ向かうはずです。
仕事がうまくいかず、人間関係もギクシャク…「もう退職しよう」と即決するのはまだ早いです!
もちろん職場を変えることによって解決できる問題もありますが、転職先が今よりも良い職場である保証はどこにもありません。まずは自分が変わることによって何か改善できることはないか考えてみましょう。
もし、業務量や残業がしんどい場合は雇用形態を見直して、フルタイムからパート勤務に変えてみたり、時間帯を変えてみたりするだけで心身の疲れや人間関係のストレスも軽減されるでしょう。
日々仕事だけに追われてしまうと心身ともに疲弊してしまいます。好きな食べ物を食べたり、映画を観たり、動物に触れたり、カラオケに行ったり、部屋の模様替えをしてみたり、運動してみたり…自分の趣味や気分転換になることを仕事が早く終わった日や休日などに時間をつくって楽しみましょう!
少しの時間でも心がリラックスすることで、ストレスの蓄積を防ぐことができます。
働き方は人によってさまざまですが、ストレスを溜め込みやすい人の特徴に”仕事と私生活とのオンとオフの切り替えが苦手”なことが多くあります。それに当てはまる人は“仕事”と“プライベート”にちゃんと境界線を設けて、”割り切る”ことが大切です。それにより仕事への過度なのめり込みや精神的疲労を軽減することができます。そのためには、「今日の仕事は今日中に」を心がけ、事務作業を溜め込まないようにスケジュールを立てて日々の仕事に望みましょう。
自分ができないことや苦手なことを自覚することも、ストレスを減らす重要な手段です。
例えば、コミュニケーショが苦手だからと職員や保護者との会話を避けず、自分とは異なる意見や考え方を学ぶ機会だととらえて、自分から声をかけてみましょう。初めは緊張するかもしれませんが、成功体験が増えることによって、その他のことにも「努力すれば変われる」と自信を持つことができるでしょう。
マインドフルネスといった、心の集中や瞑想をベースとしたエクササイズもストレス軽減にとても効果的と言われています。ついつい将来のことであれこれ心配したり、過去のことをくよくよ悩んだりすることがありますが、マインドフルネスは「今この一瞬」を大切にしようとする考えになります。自分の内側の状態を明確に判断して、理解することで、ストレスフルな状況であっても、落ち着いて対処することができるでしょう。
1~6の対策を実践してみてもなかなか効果が出ず、ストレスは溜まる一方で「もう限界!」となったら最終手段として転職を考えてみましょう。環境によっては職場を変えることで視野が広がり、今では想像できないような選択肢を得ることができるかもしれません。転職活動は自分と向き合うチャンスでもあります。
保育士は、年齢を問わず活躍できる職場なので、キイキと働ける職場を探して活躍していきましょう。