保育士は、乳児から小学校入学前の子どもを預かり、保護者に代わって心と体の発達を支えるお仕事です。保育園や認定こども園などで保育士として働くには、「保育士試験」に合格して、国家資格を取得する必要があります。
この記事では、保育士試験の概要をはじめ、試験内容、難易度、合格率、勉強方法などをわかりやすく解説します。
保育士とは、国家資格である「保育士資格」を持ち、児童福祉法に基づいて保育を行う専門職です。0歳から就学前(6歳ごろ)までの子どもたちを対象に、保護者に代わって日々の生活をサポートします。
身の回りのお世話や安全の見守り、生活リズムを整えるといった日常のサポートに加えて、子どもたちと遊びながら、コミュニケーション能力や感性、自主性、考える力など、“人として大切な力”を育てていくのも保育士の大切な役割です。
子どもの心と体の土台を育む、大切な時期に寄り添う“子育てのスペシャリスト”。それが保育士というお仕事です。
保育士の仕事は、子どものお世話だけではありません。毎日、子どもたちの成長を支えながら、イベントの企画や保護者とのやり取り、職員会議や研修など、さまざまな役割を担っています。
<子どもへの関わり>
• 食事やトイレ、着替えなどのサポート
• 生活習慣を身につける手助け
• 遊びを通して社会性や協調性を育む
• 体と心の状態を見守り、必要に応じてケア
<保護者への対応>
• 子育てに関するアドバイスやサポート
• 連絡帳や園だよりなどのおたより作成
<その他の業務>
• 行事やイベントの企画・実施
• 職員会議への参加、保育内容の検討
• 栄養士や看護師など他職種との連携
• 施設の安全・衛生管理
• 外部研修への参加や地域との交流
子どもたちの笑顔のために、毎日たくさんのことに取り組んでいるのが保育士の仕事です。
保育園では、子どもを朝7時〜夜7時ごろ(園による)まで預かるのが一般的です。保育士はその時間帯をカバーできるように、早番・日勤・遅番のシフト制で働いています。1日の勤務時間はおおよそ8時間で、他の保育士と連携しながら、子どもたちの生活を支えています。
保育士の仕事内容や1日の流れについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
・「保育士の仕事内容は?幼稚園教諭との違いから、簡単にわかりやすく解説」
保育士が勤める保育施設は数多くあります。下記に主な保育施設の種類をまとめましたので、ご覧ください。
保育士養成施設について | |
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大学 |
4年間で保育に関する授業だけでなく、一般教養や外国語など他分野の領域も学びながら、卒業と同時に保育士資格を取得できます。多くの大学が保育士資格だけでなく、幼稚園教諭一種免許や小学校教諭一種免許など、教育に関連する資格取得を目指せたり、保育に間接的に関わることができる一般企業への就職もできたりと、将来の選択肢が広いことが特徴です。 公立の保育所を目指す場合は、公務員試験の勉強も必要となるのでダブルスクールを利用する学生が増えています。 |
短期大学 |
2年間で保育に必要な知識や技術、一般教養などを学び、卒業と同時に保育士資格を取得することができます。 大学に比べて在学期間が短いので、実践的な授業が中心となることが特徴となります。幼稚園教諭二種免許も取得可能な短期大学が増えています。 |
専門学校 | 2~3年間、保育士として現場で役立つ知識と技術も学び、卒業と同時に保育士資格を取得できます。短大と同じく幼稚園教諭二種免許も取得できるところが多く、3年制の場合は、音楽やダンス、食育など、保育士としてより専門性を高めるためのコースが選択できる学校が増えています。 |
通信制大学 |
働きながら資格取得を目指す方や通学することが困難な方に適しています。パソコンやテキストを使って自宅で知識や技術を学び、卒業と同時に保育士資格と短大卒・大卒・学士号の資格を取得することができます。 通学時間の削減や、授業料を大幅に抑えられることや、自分に合ったスケジュールやスキマ時間を利用して学ぶことができるのが特徴です。 |
この他にも児童養護施設や母子生活支援施設、障害児施設など多くの施設で保育士は活躍しています。
こども家庭庁が発表した令和6年4月のデータによると、保育士の有効求人倍率は2.42倍。これは、全職種の平均である1.18倍を大きく上回る数値です。それだけ保育士の人材が求められているということですね。
背景には、女性の社会進出や共働き家庭の増加などがあり、保育施設は、家庭と仕事の両立を支える大切な存在になってきています。さらに、2025年(令和7年)には、保育所を利用する子どもの数がピークを迎えるといわれています。
このため、国では「新子育て安心プラン」を進めていて、2021年度から2024年度末までに約14万人分の保育の受け皿を整備する計画が進められてきました。
自治体も保育士さんの確保に力を入れていて、今後ますます保育士は必要とされるお仕事といえるでしょう。
保育士の資格の取得を目指すには「指定校を卒業」と「保育士試験」の2つの方法があります。
指定校を卒業して資格を取得する方法は、厚生労働省が認定した保育士養成施設(4年制大学、短大、専門学校、通信制大学など)を修了することで資格を取得できます。学校では、保育の知識と実技の両方をしっかり学べるので、卒業後すぐに現場で働きやすいというメリットがあります。
一方、保育士試験を受けて資格を取得する方法は、年に2回実施される国家試験で、合格すれば資格を取得できます。保育士試験の受験資格には、年齢や学歴による制限がほとんどなく(実務経験が必要なケースもあります)、社会人や主婦の方からの受験も多いんです。自分のペースで学んで目指せるので、再スタートを切りたい方にもぴったりのルートですね。
保育士試験は「一般社団法人全国保育士養成協議会」が実施しています。受験するには、短大卒業程度以上の学歴がある方、または一定の実務経験をお持ちの方が対象となっています。具体的な受験資格は、以下の通りです。
<大学・専門学校による受験資格>
• 大学・短大・専門学校卒業している(学部・学科は問いません)
• 大学在学中または中退の場合、2年以上在学し62単位以上修得している
• 専門学校は「学校教育法に基づく専修学校」で「修業年限2年以上の専門課程」を卒業、または在学中で年度内に卒業見込みである
<高校卒業の場合>
• 平成3年3月31日以前に高校を卒業している
• 平成8年3月31日以前に保育科の高校を卒業している
• 上記以降に高校卒業の場合は、児童福祉施設などで2年以上かつ2,880時間以上の実務経験が必要
<中学卒業の場合>
• 児童福祉施設等で5年以上かつ7,200時間以上の実務経験が必要
また、より多くの人材を確保するために、試験は年2回(前期・後期)実施されています。お仕事や家事などで忙しい方にとって、受験のチャンスが多いのはうれしいですね。
合格基準は、筆記・実技の各科目で100点満点中60点以上(一部異なる)。
一度で全科目に合格できなくても、筆記試験で合格した科目は3年間有効です。少しずつ着実に合格を目指せる仕組みなので、無理のないペースで挑戦できますよ。
保育士試験を受けて資格を取得するまでの流れは、大きく分けて7つのステップがあります。
• 受験申込み
• 筆記試験
• 筆記試験の合格発表
• 実技試験
• 実技試験の合格発表
• 保育士登録手続き
• 保育士証の交付
流れとしては、まず受験の申し込みをして筆記試験にチャレンジ。合格した方だけが、次の実技試験に進むことができます。その後、実技試験にも合格すれば、いよいよ保育士としての登録手続きへ。手続きが完了すると、保育士証が交付され、晴れて保育士として認定されます!
試験の概要や実施時期については、以下の表も参考にしてください。
ここでは、保育士試験の筆記と実技それぞれの試験内容、難易度や合格率について解説します。
筆記試験では、全部で9つの科目があります。
・保育原理:保育の基本的な理念や目的について
・教育原理:教育の意義や制度、実践方法について
・社会的養護:社会的養護の制度や実施体系について
・子ども家庭福祉:児童家庭福祉の意義や制度について
・社会福祉:社会福祉の基本的な知識と制度について
・保育の心理学:子どもの発達や心理的な側面について
・子どもの保健:子どもの健康管理や疾病予防について
・子どもの食と栄養:子どもの栄養管理や食育について
・保育実習理論:実習に必要な理論や実践方法について
合格するには、100点満点の科目は60点以上、50点満点の科目は30点以上を取る必要があります。また、教育原理、社会的養護は「ニコイチ科目」といわれており、それぞれで30点以上とらなければなりません。どちらか一方が30点未満の場合、両方が不合格になるため注意しましょう。
以下に、それぞれの科目内容を簡単にまとめました。
実技試験では、「音楽」「造形」「言語」の3つの分野から、自分に合った2つを選んで受験します。各分野には評価基準があるので、得意な分野を選ぶことが合格への近道ですよ。
<音楽の試験>
ピアノ、ギター、アコーディオンを使って子どもに歌を聴かせる力が問われます。楽器を弾いた経験がある方には、とくにおすすめです。
<造形の試験>
鉛筆や色鉛筆などを使って絵を描きます。大切なのは、子どもが見てわかりやすく、明るく楽しい雰囲気の絵を描けるかどうか。難しく考えすぎず、表現する楽しさを大切にしましょう。
<言語の試験>
子どもたちにお話をする力が試されます。3歳児20人の前でお話することを想定して、課題の中から1つを選び、3分間で発表します。声のトーンや話し方、子どもが集中して聞ける工夫などをチェックされます。
実技試験でいちばん大事なのは、「完璧な演奏や表現」ではなく、「子どもが楽しく過ごせるかどうか」。たとえ少し間違えても、笑顔で堂々と表現できる自分らしさが大切なのです。
保育士試験の合格率は、全体として毎年20~30%程度です。
筆記試験と実技試験で違いがあり、筆記試験の合格率は20%前後と低めですが、実技試験は80~90%と高く、多くの方が合格しています!
この差の理由は、筆記試験では9科目もの幅広い知識が求められる一方、実技試験では自分の得意分野を選べるから。だから、事前にしっかり対策をすれば、合格は決して難しくありませんよ。
社会人の方や主婦の方もたくさん合格しているので、あなたにもきっとできます。焦らず、一歩ずつ進めていきましょうね。
試験の内容や難易度がわかったところで、次に大切なのが「どうやって勉強するか」ですよね。
ここでは、独学、通信講座・スクール、勉強スケジュールという3つの視点から、効果的な勉強方法をお伝えしていきます。
独学で保育士試験を目指すなら、まずは教材選びが大切です。
科目ごとの参考書や問題集を購入し、過去問を中心に勉強するのがよいでしょう。インターネット上には、過去問を掲載しているサイトもありますので、「保育士試験 過去問」で検索して活用してくださいね。
また、9科目という広い範囲を限られた時間で勉強するには、スケジュール管理がカギになります。たとえば、1日の中でいつ勉強するのか、どの科目にどれくらい時間を使うかを「見える化」しておくと、効率的に進めやすくなりますよ。
スマホアプリで学習の進み具合を記録していくと、「こんなにやれた!」という達成感も得られて、モチベーションもアップするのでおすすめです。
「一人での勉強はちょっと不安…」という方には、通信講座や通学講座の利用がおすすめです。
独学では「どこから始めればいいのかな?」「このやり方で合ってるのかな…」と悩むことも多いですが、講座ならプロが組んだカリキュラムで効率よく学べますよ。
社会人の方におすすめの保育士資格試験対策講座をまとめました。通学講座でも自宅学習向けのコースが充実しているので、自分の生活スタイルに合った講座を選んでみてくださいね。
<人気の通信講座>
• ニチイ 保育士受験対策講座
テキスト中心で学べて、スマホアプリでいつでも過去問題が解けます。空き時間や移動中に便利です。
• ユーキャン 保育士講座
過去問題を徹底分析した教材と動画で実技対策もバッチリ。試験の流れもわかるので安心です。教育訓練給付金制度も利用できます。
• たのまな 保育士【完全合格】講座
テキストに加え、講義DVDや音声でしっかり学べます。プロの講師による無料セミナーもあり、3年間のサポート付きです。
• キャリア・ステーション 保育士総合講座
パソコンやスマホで24時間いつでも受講可能。忙しい方や遠方の方にぴったりです。
• 四谷学院通信講座 保育士講座
独自の学習システムとゲーム感覚の演習で楽しく学べます。質問も何度でもできて安心です。
<人気の通学講座>
• キャリア・ステーション 保育士総合講座
通信講座で紹介しましたが、通学講座もあります。教材は試験に沿っていて合格率も高いです。通学できない人向けに動画授業もあり、生活スタイルに合わせて学べます。教育訓練給付制度対象なので費用もおさえられます。
• ライセンス学院 保育士講座
週1~2回通学し、実技対策や苦手科目の補強も可能。通信だけでは不安な方におすすめです。
保育士資格取得には時間と努力が必要です。特に実技試験もあるため、「独学は大変…」という方は、通信講座や通学講座を上手に活用して、合格を目指しましょう!
保育士試験の勉強は、長く続けられるペースで勉強計画を立てることが大切です。一般的に、保育士試験に必要な勉強時間は約90〜350時間といわれており、半年~1年くらいの期間を目安にスケジュールを組むのがおすすめです。
忙しい毎日でも無理なく勉強を続けるためには、スキマ時間を味方につけることが大切です。たとえば、平日は通勤時間やお昼休みに30分〜1時間、土日は少しまとまった時間を確保する、というスタイルもおすすめです。
実際に、働きながら合格した方の例では…
・最初の2ヵ月で基礎知識をインプット
・次の2ヵ月で過去問を中心に苦手分野を分析
・残り3ヵ月で模擬試験や復習を集中して実施
といった流れで勉強されていました。
また、科目の特徴に合わせて勉強方法を変えるのも効果的。たとえば、暗記が中心の科目は音声教材を使って通勤中に学び、図解が多い科目は自宅で集中して取り組むなど、工夫することで効率よく学べますよ。
無理のないスケジュールでコツコツ続ければ、着実に合格へ近づけます。あなたのライフスタイルに合った方法で、楽しく学んでいきましょう!
保育士試験に向いている人は、なんといっても「子どもが好き!」という気持ちを持っている方です。
毎日、子どもたちの笑顔に囲まれ、その成長を見守る保育士の仕事は、子どもへの愛情があってこそ続けられるもの。子どもたちの小さな一歩や「できた!」の瞬間に心から喜べる人は、保育士に向いているといえるでしょう。
また、人のサポートを自然とできる方も保育士に向いています。
保育の現場では、子どもだけでなく、保護者の方々の子育て支援や、同僚との連携も大切な仕事です。誰かを助けることにやりがいを感じられる方は、保育士としての仕事に大きな充実感を得られるでしょう。
さらに、コツコツと努力を積み重ねられる方も保育士に向いています。
保育士試験の勉強はもちろん、実際の現場でも日々の記録や計画作成など地道な作業が多いもの。すぐに結果が見えなくても、長い目で子どもの成長を見守れる方なら、保育士として大きく成長できるはずです。
このような資質を持つ方なら、年齢や経験に関係なく、保育士試験にチャレンジできますよ!
保育士試験に合格すると、保育所や認定こども園、児童福祉施設など、子どもたちと関わるさまざまな場所に就職できるようになります。それだけでなく、企業内保育所や子育て支援センター、児童養護施設や放課後デイサービスなど、「子どもが好き」という気持ちを活かせる場所がたくさんあるんです。
さらに、自治体が運営する公立保育園で公務員保育士として働けるようにもなります。各自治体の採用試験に合格すれば、地域の子育て支援の一員として活躍できる場が広がりますよ。
保育士資格は、キャリアアップにもつながります。経験を積むことで、主任保育士や園長といった管理職、特別支援保育士などの専門職へとステップアップできるのです。また、副業として、空いた時間にベビーシッターや子育て講座の講師として働くことも可能になりますよ。
保育士の資格を活かせる仕事については、こちらの記事でわかりやすく解説しています。
・「保育士資格とは?活かせる仕事、取り方、難易度を解説!独学で取得できる?」