2015年(平成27年)に通常国会で成立した「地域限定保育士制度」をご存知でしょうか?地域限定保育士制度とは、保育士不足がとくに問題視された“国家戦略特区”と呼ばれる一部の地域で、人材の確保を目的に保育士試験の回数を増やす制度です。そのため地域限定保育士試験も含めれば“最大で年3回”保育士試験の受験チャンスがあることになります。そして、その地域限定保育士試験に合格した方は「地域限定保育士」として地域限定で働くことできる保育士となります。そんな地域限定保育士試験の内容を含めて「地域限定保育士」について、今回はメリット・デメリットはもちろんのこと実施している地域などもご紹介していきます。また、2019年度と2020年度の保育士試験の最新情報もお届けしますので、ぜひ最後までお読みください!
近年、深刻化する待機児童問題の裏側には“保育士不足”が原因の一つだとされています。保育園を増設しても、実際に子どもを見守る保育士が居なければ定員に余裕があれど待機児童が減ることはありません。そこでこのことを重く見た行政は保育士不足の解消に向けたさまざまな施策を打ち出しました。主な施策として下記とおりです。
そう、この「⑤保育士資格の試験実施回数の増加」の施策こそが“地域限定保育士制度”ができた背景となります。以前まで保育士資格を取得するための全国共通試験である「保育士試験」は年1回のチャンスでした。しかし表面的にも保育士の確保をしたい行政は、2015年(平成27年)通常国会にて「国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律」を成立させ、資格取得後3年間は当該の自治体内のみで保育士として働くことができ、4年目以降は全国で働くことができる 「地域限定保育士(正式名称:国家戦略特別区域限定保育士)」となるための試験制度を新たに創設させました。これにより「地域限定保育士試験」でも保育士資格取得ができるため、保育士になるチャンスが年2回のとなりました。さらに2016年(平成28年度)には全国共通試験の「保育士試験」も年2回に増やすこととなり、現在では地域にもよりますが地域限定保育士試験を含む合計“年3回”保育士試験が実施されています。
では、地域限定保育士とは一体どんな保育士なのか。まずは一般社団法人全国保育士養成協議会によると以下のとおりとなります。
【地域限定保育士とは】 |
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・地域限定保育士試験の合格者は、地域限定保育士として登録後、3年間は受験した自治体(特区区域内)のみで保育士として働くことができる資格が付与されます。 ・地域限定保育士の登録を行ってから、3年を経過すれば、全国で「保育士」として働くことができます。 |
このように地域限定保育士は「3年間は特定の地域(自治体)のみで働く保育士」のことです。注意したいのは、保育士が不足している地域が優先的に人材確保をしやすいようにと考えられた制度のため、「地域限定保育士試験」を受験して合格した場合、その地域で3年間は働くことになります。しかし、通常の全国共通の「保育士試験」を受験して保育士になった方と業務内容や給料などはほとんど変わらず、活躍の場所が限定されるところにちがいがあります。もちろん3年間の中でも、当該地域であれば乳児院や児童養護施設等どこの児童福祉施設でも、募集条件を満たして採用を行っていれば働くことができます。
前項のとおり地域限定保育士は、基本的に「3年間」は地域限定保育士試験を受けた自治体の地域でしか働くことはできません。各自治体によっては全国の保育園での勤務も可能としている自治体もありますが、当該地域での保育士登録※から3年が経過すれば全国の保育園で保育士として活躍できるようになります。なお、3年間での実務経験の有無は問われません。
例)神奈川県の地域限定保育士試験に合格! |
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【〇】神奈川県内保育園での勤務OK 【Ⅹ】神奈川県外保育園での勤務NG 【〇】保育士登録から4年目以降の全国保育園での勤務OK |
※保育士登録について…現在、保育士として名乗るためには「保育士(保母)資格証明書」だけではなく、各自治体への「保育士登録」が必要となります。保育士登録をして「保育士証」の交付を受けてから始めて保育園などの児童福祉施設で働くことができます。これは地域限定保育士も例にもれず、各自治体へ申請し「地域限定保育士証」の交付を受けなければなりません。合格して自動的に登録されるものはなくご自身での“申請”が必要となり、保育士証が手元に届くのは不備がなくとも“約2ヵ月”を要するため、忘れずに登録をしましょう。◎保育士登録の詳しい手続き方法やQ&Aなどについては、ぜひ下記の記事をご覧ください。
保育士不足解消のための「地域限定保育士試験」ですが、実は47都道府県すべてで実施されているわけではありません。これには2つの理由はあります。ひとつはこの「地域限定保育士制度」は、行政による強制力はなく「保育士確保をより行いたい地域」が自ら手を挙げて取り組む制度なため各自治体に考え方によっては導入していません。ふたつめ、2015年(平成27年)から始まった制度でしたが2016年(平成28年)には全国共通の「保育士試験」も前期・後期と“年2回”実施することとなったため、「地域限定保育士試験」を実施する自治体が減少しています。
これまでの【地域限定保育士試験】実施地域一覧 |
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2015年(平成27年度) |
神奈川県、大阪府、沖縄県、千葉県(成田市) |
2016年(平成28年度) |
大阪府、岩手県(仙台市) |
2017年(平成29年度) |
神奈川県(独自実施)、大阪府 |
2018年(平成30年度) |
神奈川県(独自実施)、大阪府 |
2019年(平成31年/令和元年度) |
神奈川県(独自実施)、大阪府 |
ご覧のとおり神奈川県や大阪府は積極的に取り組んでいる傾向にありますが、全国各地で毎年必ず行われている試験ではなく2020年(令和2年度)の地域限定保育士試験実施に関してましても各自治体の実施は未定となっています。※ご詳細は各自治体にお問い合わせください。
地域限定保育士試験の内容は、通常の全国共通の「保育士試験」と同様のものとなるため勉強内容や方法にも違いはありません。また、難易度や合格ラインとしても同じとなります。したがって、地域限定保育士試験の勉強でもあっても通常と同じような下記の科目を勉強してください。
筆記試験科目 |
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・保育原理 ・教育原理及び社会的養護 ・児童家庭福祉 ・社会福祉 ・保育の心理学 ・子どもの保健 ・子どもの食と栄養 ・保育実習理論 |
実技試験科目 |
・音楽表現に関する技術 ・造形表現に関する技術 ・言語表現に関する技術 |
以上筆記試験は8科目、実技試験は3科目となります。全国共通の「保育士試験」と同様に筆記試験を合格した受験者のみ実技試験に進めますが、「地域限定保育士試験」を行っている各自治体の多くは実技試験の代わりに、働きながら保育士資格を取得したい方への配慮として「実技講習」を実施し修了すれば実技試験を通過としています。地域限定保育士試験の勉強方法としても全国共通の「保育士試験」勉強と同様に、短大や専門学校への入学や通信講座を利用したり、独学で勉強をしたりと自分に合った方法で臨んでください。◎以下記事も合わせてお読みください。保育士試験対策に人気の通信講座・通学講座のご紹介から保育士の仕事内容までまとめています。
全国共通の「保育士試験」には再受験者や幼稚園教諭免許所有者へのための“科目免除制度”がありますが、「地域限定保育士試験」でも免除制度は適用されるのでしょうか。一般社団法人全国保育士養成協議会ではこのような記述があります。
このように全国共通の「保育士試験」で合格した科目は、地域限定保育士試験でも免除されます。また「地域限定保育士試験」で合格した科目も、合格後3年間は全国共通の「保育士試験」でも免除が可能となります。下記より地域限定保育士試験を利用した受験の例を挙げておりますのでご参考にしてください。
受験例① | |
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受験1回目 | 全国共通の「保育士試験」の筆記試験【3科目】合格 |
受験2回目 |
神奈川県の「地域限定保育士試験」の筆記試験 受験1回目の合格科目以外【5科目】合格 |
例①の受験ケース解説 |
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受験1回目で合格した3科目は免除対象となるため、受験2回目では残りの5科目を「地域限定保育士試験」を通過すれば筆記試験は合格となりあります。そして地域限定保育士試験にて実技試験の代わりの実技講習を修了すれば、地域限定保育士試験に合格したといえ「神奈川県の地域限定保育士」としての資格が付与されます。 |
受験例② | |
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受験1回目 | 全国共通の「保育士試験」の筆記試験【4科目】合格 |
受験2回目 |
神奈川県の「地域限定保育士試験」の筆記試験 受験1回目の合格科目以外【2科目】合格 |
受験3回目 |
全国共通の「保育士試験」の筆記試験 受験1・2回目の合格科目以外【2科目】合格 |
例②の受験ケース解説 |
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こういった保育士資格の取り方も認められており、この場合は全国共通の「保育士試験」の筆記試験に合格したこととなるため次のステップである実技試験も合格できれば、通常のどこの地域でも活躍できる保育士となります。 |
ただ、例①の受験ケースのような手順で筆記試験に合格しさらには実技講習も修了して「地域限定保育士試験合格」となった方が、「神奈川県以外の地域で働きたいから、合格したけど免除制度を使って来年度の通常の全国共通の保育士試験を受けよう」とした場合、受験は可能ですが“地域限定保育士試験で合格していながら働いていない=働く権利を放棄している”とみなされ、合格していた筆記試験科目(通常の試験の科目も含め)は全て無効の免除対象外となり初受験扱いになってしまいますのでご注意ください。しかし、地域限定保育士試験の実技講習を受講せず来年度の全国共通の「保育士試験」の実技試験で合格すれば、地域問わず全国で働ける保育士資格の所持ができます。これらのことから通常の全国共通の「保育士試験」合格を目指し、地域限定保育士試験を活用する際には、いくつかの科目を先に「地域限定保育士試験」にて合格しておき、次回の「保育士試験」に備えるという二段構えのような“計画的な受験”を考える必要があります。また「幼稚園教諭免許所有者」の方が地域限定保育士試験を受験した場合、最初から“実技試験が免除”です。したがって筆記試験科目がすべて合格となった時点で「地域限定保育士試験合格者」となります。ただ、上記の注意点と同じく地域限定保育士試験合格者となってからの全国共通の「保育士試験」を受験する時には、筆記試験の過去の合格科目は“免除対象外”となってしまいます。
それでは地域限定保育士そして地域限定保育士試験の“魅力的な点と欠点”をまとめましたので、地域限定保育士を目指す際や資格取得として活用する場合にご参考ください。
さいごに、最新の保育士試験に関する最新情報をお届けします!しっかりとチェックをして、今後の保育士試験の受験計画にご活用ください。
全国共通の「保育士試験」後期 |
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筆記試験:2019年(令和元年度)10月19日(土)・20日(日) 実技試験:2019年(令和元年度)12月8日(日) |
上記が試験日となる“通常の保育士試験の後期”にあたる「受験申請の手引き」のインターネット請求が、令和元年6月17日(月) より受付開始されています。
※インターネットでの手引き請求期間は、令和元年7月17日(水)23時59分まで
※令和元年7月18日(木)以降は“郵送”にて請求してください。
※受験申請書受付期間は<令和元年6月27日(木)から7月24日(水)まで ※当日消印有効>となっていますのでお早めの請求を。
※詳しくは一般社団法人全国保育士養成協議会の「インターネット請求方法」をご覧ください。
改正前の筆記試験科目「児童家庭福祉」に合格している場合に、経過措置により改正後の「子ども家庭福祉」が“引き続き免除”になります。したがって今年、2019年(令和元年)に「児童家庭福祉」を合格した際に、2021年(令和3年)まで「子ども家庭福祉」が免除対象です。ただし、合格科目免除期間延長制度を利用する場合は、最長令和5年まで免除となります。
※詳しくは一般社団法人全国保育士養成協議会の「保育士試験科目改正について<」をご覧ください。
幼稚園教諭免許・社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士資格所有者の方は、改正前の試験免除科目が記載された「幼稚園教諭免許所有者保育士試験免除科目専修証明書 及び 社会福祉士、介護福祉士又は精神保健福祉士保育士試験免除科目専修証明書(以下、幼教専修証明書等という)」を提出することにより、改正後の試験科目を免除できます。
※詳しくは一般社団法人全国保育士養成協議会の「指定保育士養成施設での科目履修による免除について」をご覧ください。
神奈川県は2020年(令和元年度)には約24,800名もの保育士が必要になると推測されており、さらなる保育士確保に前向きに取り組んでいます。ほか地域では地域限定保育士試験の実施に消極的な中、独自で試験を実施しています。さらに今後は「神奈川県独自で保育士試験問題を作成すること」を首相官邸で開かれた国家戦略特区諮問会議で提案もしているほど深刻な保育士不足に向き合っています。
出典:産経ニュース