子どもの体力・運動能力はここ15年以上低下傾向が続いているそうです。
子供のころに培われる基礎体力や運動能力は、生きていく上でもとっても大事なものです。
少しでも身体を動かす機会を多く持ち、体力・運動能力を向上させる過ごし方ができるといいですね。
では、保育園で運動を取り入れる際は、どのような運動が効果的なのでしょうか。
色々な種類があってどのような運動が良いのか、迷っている保育士さんも多いのではないでしょうか?
今回は、幼児期の子供に実施してほしい、保育園でお勧めの体操をご紹介していきます。
ぜひ、日常保育の参考にしてみてください。
今の子どもたちは、昔と比べると生活が便利になり、さらに生活様式が変わったことなどにより身体を動かす機会が減ってしまいました。
それにより子どもの体力・運動能力は昭和60年ごろから現在に至るまでの15年以上、低下傾向が続いているようです。
[子どもの体力・運動能力の推移]
図1-1 持久走の年次推移
昭和60年以降の調査結果について、具体的に見ると、持久走(男子1,500m、女子1,000m)では、例えば、13歳女子は、昭和60年を最高に平成12年では25秒以上遅くなっている(図1-1)。
平成12年の結果を親の世代である30年前の昭和45年調査と比較すると、ほとんどのテスト項目について、子どもの世代が親の世代を下回っている(図1-2)。 また、部活動などで運動を日常的に行っている者の体力・運動能力は、運動を行っていない者を上回っている(図1-3)。
さらに、体力・運動能力が高い子どもと低い子どもの格差が広がるとともに(図1-4)、体力・運動能力が低い子どもが増加しており、このことはスポーツ少年団や部活動などで運動をよくする子どもとほとんどしない子どもとの二極化傾向が指摘されていることと無縁ではないと思われる。
出典:文部科学省 1 子どもの体力の現状と将来への影響
とても深刻な状況が続いています…。
幼児期から10代までの時期に運動している子としていない子を比較すると、骨や筋肉の発達、体力、脳の発達など、多くの点で乖離が見られるといった報告もあります。
ではここで、「子供たちが運動する意義」として、文部科学省の幼児期運動指針にある記述をチェックしておきましょう。
幼児期における運動の意義
幼児は心身全体を働かせて様々な活動を行うので、心身の様々な側面の発達にとって必要な経験が相互に関連し合い積み重ねられていく。このため、幼児期において、遊びを中心とする身体活動を十分に行うことは、多様な動きを身に付けるだけでなく、心肺機能や骨形成にも寄与するなど、生涯にわたって健康を維持したり、何事にも積極的に取り組む意欲を育んだりするなど、豊かな人生を送るための基盤づくりとなることから、以下のような様々な効果が期待できる。
出典:文部科学省 幼児期運動指針
更に、“幼児期運動指針”に上げられている期待できる効果を要約すると、下記の通りとなります。
人が生きていくために重要な“体力”は、全ての活動の源であり、健康の維持のほかにも意欲や気力など精神面の充実にも大きく関わります。
神経機能の発達が著しい幼児期は、タイミングよく動く、力の加減をコントロールするなどの運動を調整する能力が向上する重要な時期です。
運動能力の向上は、新しい動きを身に付ける時にも重要であり、周りの状況の的確な判断や予測に基づいて行動する能力も向上させるため、ケガや事故の防止にもつながり、児童期以降の運動機能の基礎を形成します。
丈夫なバランスの取れた体作りにも、運動の習慣は重要です。身体の諸機能における発達が促進され、生涯にわたって健康的な生活を築き、肥満を防ぐ効果が期待できます。
成人後の生活習慣病のリスクを軽減し、身体的にも精神的にも疲れにくくさせる効果があります。
身体を動かすことで、健やかな心の育ちが促されます。
運動する中で成功体験を重ねることで、意欲や有能感が育ち、何事にも意欲的に取り組む姿勢が養われます。
多くの友だちと集団で関わることが出来るようになっていく時期には、さまざまな運動を通し、遊びの中でルールを守り、自己抑制をし、コミュニケーションを取り、周囲と協調するという社会性が身につきます。
運動している最中は、意識していないところで、状況を瞬時に判断し運動を実行させるまで、脳の多くの領域を使用しています。
全身運動では、素早い方向転換などの身のこなしや状況判断や予測などの思考判断が必要となります。
そのため、運動は、脳の運動制御機能や知的機能の発達に役立っています。
更に、集団のレベルに合わせてルールを変化させたり、新しい遊びを創り出すことなどは、豊かな創造力を育むことにもつながります。
「運動には、こんなにたくさんの効果があったんだ!」と、改めて運動の重要性を痛感したという方もいるかもしれません。
でも、「心身ともに良いことなのだから運動をしよう!」と子どもたちに言葉で伝えるよりも、保育の中にうまく運動を取り入れて、自然と「運動は楽しい」、「集団でルールの中で遊ぶことは面白い」ということを、身体を動かす中で実感してもらえるといいですね。
保育園では、子どもたちが楽しく身体を動かし、様々な動きを身に付けることが出来るような工夫を心がけていく必要があります。
学校の授業の様に半ば強制してやるのではなく、楽しんで遊んでいるだけなのに、自然と身につ いている!という感じが、保育園での運動のポイントです。
嫌々やっては、身につくどころか、「運動嫌い」になりかねません。
子どもって本当に音楽が大好きです。
リズムに合わせて身体を動かしたら、体を動かしている自分自身に驚き、続いて回りで動いている友達の動きを見ても面白く、クラスみんなでとっても盛り上がります。
おすすめの体操をいくつかご紹介しますので、ぜひ、保育園での活動の中に、取り入れてみてください。
子どもたちの大好きなディズニー音楽に合わせて身体を動かすのでとても楽しめます。
ラジオ体操のような全身を使った動きがたくさん出てきます。
繰り返しのリズムで子どもたちにも覚えやすい振付です。
明るくノリノリの感じがとっても楽しめますが、やってみると結構ハードです…。
一人でやると良く分からない振り付けが、何人か集まって並んでやると、意味を持つ動きに変わります。
子どもたち同士のコミュニケーションを育める良い体操ですね。
太極拳というだけあって、スローテンポもあり、静と動を味わえてとっても良い運動になります。
子どもたちの大好きな昆虫がたくさん出てくるのでとても盛り上がりそうですね。
同じ振り付けと歌詞を繰り返すので、3歳児でも覚えられそうですね。一度聴いたらすぐ「ら~めん~」と歌詞が頭に残ってしまうほど。子どもたちも大好きな子が多いラーメンの体操なので、楽しんで踊ってくれそうですね。
曜日ごとに振り付けが違って、面白いポーズも多いおどるんようび。テンポがゆっくりだったり、速くなったりと複雑なので、4・5歳向きでしょうか。踊りながら今日は何曜日~と楽しみながら体操できそうです。
終始アキレス腱を意識した体操ですが、単純な動きが多いことと、見本と説明を1テンポ早くできるので、いろんな年齢でも踊りやすいですね。保育士がアキレスケンタウルスになりきって、踊りと子どもたちも楽しんで踊れること間違いなしです!
体操にはたくさんの種類がありますが、運動会でよく見られる体操として、「組体操」があります。
組体操とは、二人以上の人が組んで行う体操のことを言います。
技によってレベルは様々なので、幼稚園や保育園、小学校、中学校と、幅広い年代の子供たちが運動会の種目の一つとして、広く取り組んでいます。
組み体操は、“お互いに力を貸したり、体重を利用し合ったり、体の持つ特質・技術を提供し合うことにより、一人では得られない効果を狙った体操”と定義されています。
現在、ピラミッドやタワーなど、どれだけ高く出来るか、どれだけ難易度が高いものが出来るかなどに重きが置かれてしまっているところもあるようです。
しかし本来は、相手と関わり合うことで成立する体操であることから、他を思いやる心や協調性、コミュニケーション能力など、社会に出て必要なことが得られるとても重要な体操であるということを再認識しておきましょう。
では、保育園で組体操を行う際、どのような構成で行えばよいのでしょうか?
笛や太鼓にあわせる、音楽にあわせる、四季・虫・花火といったテーマ性を持たせるなどを決めていきます。
ポイントとしては、下記の2つのいずれかの方法がありますが、「A.」の方がスムーズに進めやすいでしょう。
A.まず大枠のテーマを決めてから細かい内容を決めていく
B.特定の曲や、使いたい振り付けなどがある場合、そこから逆算して全体の内容、大枠のテーマを決めていく
よく見られるのが、一人技から二人技、三人技へと進んでいくものです。
一人技では、片足バランス、ブリッジ、V字バランスなどバランスをとるポーズ。
二人技では、ひこうき、倒立、トンネル(互いの足の裏をあわせる)、滑り台など。
三人技では、扇、ピラミッド、おみこしなど。
最後に全員で大むかで。
ポーズが決まった時に子ども達の「ヤー」などの掛け声があると、ピリッと締まり、まだまだ幼い保育園児たちでもカッコよく決まります。
演目を進めていく合図として、和太鼓を取り入れると、一段とカッコよく、そんな中一生懸命にポーズをとる子供たちの姿は、実に頼もしく、感動させられます。
難易度にこだわらず、子どもたち同士がお互いを思いやりながら懸命に取り組む姿に、組体操の素晴らしさがあるのではないでしょうか。
組み体操のすばらしさや感動はひとしおなのですが、一方で怪我や事故についても、おさえておく必要があります。
平成26年度、小学校・中学校・高等学校を併せると組み体操による怪我は8,592名も報告されています。
小学校においては、サッカー、フットサルに次いで組体操による事故が多いようです。
怪我の種類としては、小学生では挫傷・打撲、捻挫、骨折の順で多く、死亡事例に関しては昭和44年以降に9件、障害事例に関しては昭和44年以降に92件確認されています。
組体操事故事例(死亡)
・体育の時間、運動会で行う5~6年の合同の造形体操を練習していたとき、3人が一組となり、土台の二人の児童の両肩の上に3人目の本児が両足を置き、笛の合図で立ち上がろうとしたところ、両手を上げた状態で後ろへあお向けに倒れ、地面に側頭部、背部を打った。(昭和50年、小学校6年生)
・当日の第3、4校時は、6年生全員による組立体操の練習が行われ、本児は、通称アンテナと呼ばれている3人組の演技で他の2人の上に乗る役となり、下の2人が向かい合って互いに肩を持ってしゃがみ、本児が肩に乗り、2人が立ち上がる途中、本児が両手を離したため、バランスを失い、尻、背、頭の順に体育館の床に転落し保健室で安静後病院で治療が行われたが翌日死亡した。(昭和58年、小学校6年生)
・放課後、卒業記念の写真撮影のため、男子13名による人間ピラミッドを組んでいた。本児は一段目で約3分、二段目・三段目の児童を支えていたが、三段目の最後の児童が乗ろうとしたとき、本児が左肩の胸部から床に倒れたため上の二段の児童が崩れ落ちた。意識不明のため、応急処置を行い、救急車で病院へ移送したが死亡。(昭和63年、小学校6年生)
出典:組体操等による事故の状況
組体操事故事例(障害:タワー)
・6年生全員が体育館で運動会の組体操を練習していた。三人組で二段の塔を組み立てる際、本児が二人組の肩の上に乗り、立ち上がろうとしたとき、バランスを失って後方にしりから落下したが、左手をかばい手として床に着いたため、左肘関節及び手首を骨折した。(昭和53年以前、小学校6年生)
・5・6年男子60名が運動会の練習として組立体操をしていた。本生徒は、下3人が組み構えた上にあがり座位で構えた。教師の合図で下3人が立ち、次の合図で本生徒は立とうとして、落下・転倒した。そのとき本生徒の左肘が体の下敷になった。直ちに応急手当をして受診、紹介された総合病院に転医、左上腕骨顆上骨折と診断された。療養の結果、関節が外側に変形し、日常生活に支障をきたした。(昭和59年、小学校5年生)
・体育の授業時、講堂で運動会の練習を行っていた際、組み立て体操の塔を作っていたときに崩れて、肘を床に打ちつけた。(昭和63年、小学校6年生)
・体育大会の組み体操を演技中、タワー(10人で造る)がバランスを失い、上段にいた生徒が足を滑らせ、かえるのようなかっこうで落下した。(昭和63年、小学校6年生)
・運動会(学校行事)時、校庭で組み体操の三段塔で立ち上がる際、下がバランスを崩したので、上に乗っていた本児が落下し左肘を骨折した。(平成7年、小学校6年生)
・体育授業時、運動場で運動会の組み体操の練習中、本児は2人の肩に乗って立つ演技をしていたところ、下の2人が立ち上がり、本児が立ち上がろうとした際にバランスを崩して後方へ転落した。肘から落下し左肘を強打、負傷した。(平成9年、小学校5年生)
(他、小学生で5件掲載あり)
出典:組体操等による事故の状況
主にバランスを崩し落下する事故が発生しているようです。
いずれも小学生以上の子どもたちの事例ですが、未就学児の子どもたちにおいても同様の事故が起きる可能性はあります。
保育園で組体操を取り入れる場合には、保育士さんは十分に注意して組体操の構成を考える必要がありますね。
子ども達が真剣に体操に取り組む姿は本当に感動します。
子ども達が楽しんで身体を動かすことが、心身の健康にもつながるということを、保育士さんは考える必要があります。
親御さんたちに喜んでもらうことも大事ですが、そのことばかりが意識されると、本来の目的を見失ってしまいます。
保育士さんは、まず、子ども達の安全に気を付け、決して無理をさせないようにしましょう。
そして、子供たちが楽しみながら日々の生活に適度な運動を取り入れられるといいですね。