最近注目されているナラティブ・アプローチやナラティブ・セラピー。
ナラティブ・アプローチは1990年以降、対人関係サポートの現場で幅広く実践され始めた方法です。
今までの方法では難しかった問題を解決できる事からも、多くの専門家たちからも高い評価を得ています。
例えばお子さんやその保護者と関わっていく保育士さんが何をしても解決できない事もありますよね。そういった時にナラティブ・アプローチを行うと、また違った視点からお子さんや保護者の難しい問題に立ち向かっていけるのです。
当ページではナラティブ・アプローチとは何かについてや、これに関連してナラティブ・セラピーについても詳しく解説していきます。
ナラティブとは日本語で「物語」という意味があり、アプローチには「近づく」などの意味があります。つまり、ナラティブ・アプローチ=「物語に近づく」という意味になりますね。
このナラティブ・アプローチは1990年代に生み出された方法で、「社会は人の感情の中で作られるもので、人の感情以外のところでは発達しない」という考えから成り立ちました。
ナラティブ・アプローチは医療業界だけに留まらず、社会現場などソーシャルワークなどの分野でも利用されるようになりました。
一般的に、ドクターや心理カウンセラー、ソーシャルワーカーなどは、支援される人についての情報を持っていて、それぞれの専門知識を持っています。
その一方でセラピーを受ける側は自分をサポートしてくれようとしている事実をそもそも認識していませんし、専門知識も持っていません。
しかも支援を受けているということは何か壁にぶちあたっている証拠でもあり、精神的な疲れや社会的に困難な問題、生活への支障など、何か普通と違った問題を抱えている状態です。つまり支援される側の人間は、サポートする専門家と比較すると圧倒的に小さい力しか持っていません。
このように力の差が出てしまうと無理なアドバイスや気持ちを押しつけるなどの行為があった場合、セラピーを受ける側は反論できずに追い詰められ、精神的に逆効果になってしまうことがあります。
こういった問題を回避するためにも、ナラティブ・アプローチでは支援する者と受ける側の力の差を何とかとっぱらおうとするものです。
ナラティブ・アプローチを行う人たちが意識していることは、専門性を捨てて「無知の態度」でサポートしていくことです。
この考え方は大きな議論を生み出しました。
対人支援職の分野で大きな議論を呼びました。「専門性を捨てたら専門家は不要になるため専門性に対する侮辱だ!」という批判もあったのです。
このような物議も醸し出しましたが、だんだんナラティブ・アプローチによって困難だった事例が改善されてきたケースが増えてきたため、2016年にはナラティブ・アプローチは一部で批判されつつも、多くの支援分野で用いられるようにまで至ったのです!
要するに、ナラティブ・アプローチは新たな診療スタイルの一つです。
以下に特徴をまとめてみました。
ナラティブ・アプローチではとにかく可能性を広げる循環的質問を投げかけていきます。
双方のやりとりを通し、新しい、合理的な物語を創作していくのです。
ナラティブ・アプローチとは要するに人間理解の一つの方法で、常に人生の個別具体性にスポットをあてる事ができます。
「人間の内側から物語を作り上げる」という、新たな人間理解へ挑んでいるわけです。
人間の人生は周りからの期待や希望が色濃く反映してできているものでもあります。
ナラティブ・アプローチの視点を取り入れることにより、このような他者の欲望に染まった人生を、「一つの物語」として解釈し直す力が得られる方法です。
ナラティブ・アプローチは医療業界だけでなく、介護や保育分野、さらにビジネスの世界でも応用され始めています。幅広いジャンルでナラティブ・アプローチは使えるのです。
ただ単に身体的・精神的問題を改善していこうとするだけでなく、それ以前に相手がどのような想いを持っているか、どのように生きていきたいと感じているか、生活していきたいのかという観点に着目していきます。
そのためにも、ナラティブ・アプローチではご家族も一緒になって本人の目標や課題をシェアし、多職種で連携していく必要があります。
本人が今までたどってきた人生や、ご家族と一緒に築き上げてきた想い出、今現在置かれている状況に至るまでをナラティブ(物語)としてとらえます。
そこにはこれからどうしていきたいか?という未来の物語も含まれています。ナラティブ・アプローチとは、本人が語る病気(障害)が発生した原因やいきさつ、症状についてどのように考えているのかといった物語から、本人が抱く問題や難点を一緒に共有していきます。
ナラティブ・アプローチは対話を通して良好な関係を築き上げ、双方が満足いくようなサービスを構築していくのが目的です。
また、本人独自の物語だけでなく、対話を通して問題解決するための新たな物語を創り出していく事もポイントとなります。
このアイディアは、昔の医療が科学的根拠をベースとして治療してきた結果、どんなに良質な医療を提供していても、本人が満足できなければ意味がなく、専門家たちも達成感が得られなかったという事実により、医療現場でも取り入れられてきたのです。
本人が生活する環境全体を整える仕事もナラティブ・アプローチの一つですが、肉体的な問題だけでなく、その方の「人生の物語」に寄り添うケアが求められています。
以下、ナラティブ・アプローチならではの魅力をピックアップしてみました。
ナラティブ・アプローチにはメリットがある一方で、批判の声もあります。
言葉やコミュニケーション手段が欠如している知的障害の子供や精神障害を持った子供たちにとって、主体性や自己決定の尊重といった綺麗事は通用しないところです。
しかもナラティブ・アプローチをする側とされる側では、対等な立場を保つことはマストであるものの、そもそも最初から本質的には全く不平等な立場だとも言われています。
これまでのソーシャルワークを否定しつつも、ナラティブ・アプローチだって相手の状態や症状次第では抑圧者と被害者という関係性という見方もできます。
対等なポジションに立つことを大前提とすれば、ナラティブ・アプローチやセラピーは、条件付きで有効な面も確かにありますが、難しいところですが、実際はまだまだ課題があります。
ナラティブ・セラピーとは精神療法の一つです。
近代社会の影響を受け、心的外傷(トラウマ)やアダルトサヴァイヴァーなどの問題を抱えた人の治療に用いられています。
児童精神科やスクールカウンセリングでもよく利用される心理療法です。
具体的には、患者さんの過去もの記憶を自由に話してもらい、新たな物語を再編集する事によって、社会生活をもっと円滑に送りやすくしていく治療法です。トラウマやコンプレックスを抱えている子供たちにも多く活用されています。
例えば大震災を経験した子供たちは、大きな不安やトラウマを引きずってしまうケースが多いです。
いじめや犯罪、虐待を経験してナラティブ・セラピーが必要になる子供たちもいます。
対話という非物理的な方法によって患者さんの情報や認識を少しずつ変えていく方法であり、精神的な健康を取り戻すのに役立ちます。
いかがでしたか。
ナラティブ・アプローチやナラティブ・セラピーについてお話してきました。
本人が物語に新しい意味や解釈を創造する事により、問題を問題にしないようにするのが最終的な目標です。
セラピーにあたる者は、本人に対する関心を持って会話(質問形式)を進めていきますが、本人の生きづらさを克服し、救ってあげようと考えるのではなく、あくまでも本人が自分で新たな「人生ストーリーを再構築していくためのサポート」をしていくスタンスです。
そして浮き彫りになった問題を取り除くだけではなく、本人の価値観や人生観を改善する事までを一貫とします。